店主訪問記

2009年05月26日

有明の風 東島吉孝さん

のんのこの郷 池田健太郎さん
有明の風
代表
東島 吉孝さん


海苔はおにぎりの包装紙じゃない!
職人が営業に挑戦して、
本当に伝えられること。



 "本物の味"、"こだわりの味"、"究極の味"――。
さまざまなポスターやチラシに並ぶ、"味"の表現。しかし、本物とは何を規準にそう言うのか?究極とは、どこまでが極めたこだわりのことを、表すのか…?
 佐賀・有明海産の海苔の生産高は文句なしに、全国トップである。その品質もしかり。しかし、その"味"は私たちの食卓に届いているのだろうか…?そんな素朴な疑問を打ち破りつつあるのが、6月から新たに「さがファン」にショップオープンする「有明の風」さんだ。佐賀の美味しさをギュッと詰め込んだ「さがファン」店舗の中で唯一の、海苔取り扱い店がようやく登場する。漁協を通さず、直販に近年挑戦している同店。その"味"が、私たち消費者にダイレクトに届くのも、もう目前である。

Q・「さがファン」初の海苔ショップです。
佐賀は海苔で有名なのに、目新しい感がありますね。参加しようと思われたきっかけは?

A・みなさん、佐賀の有明海産の海苔が有名なことはご存知のようですが、では「食べたことがありますか?」と問いかけた時に、県外の方ほとんどが「ない」とおっしゃるんですね。その理由はたった一つ、「佐賀海苔」を手に入れる手段がないからなんです。私たち生産者は、海苔を作ったら卸業者に預けます。正直に言うと、預けてからは私たちが作った海苔がどの市場で、どういう名前で売られているかわからないんですよ。

Q・そういえばそうですね…。だから直販活動の一環として、「さがファン」に出店されるわけですね!「有明の風」さんの歴史を教えてください。
A・佐賀の有明海で、海苔の養殖が始まったのが昭和27年です。私は4代目にあたりますが、その翌年から漁業と併行して、海苔養殖を始めました。海苔は種を貝殻に培養して網に付けていくのですが、当時は天然の種が熊本の有明海にしかなく、熊本まで種付けに行っていましたね。それから約10年、失敗の連続の後、海苔養殖の黄金時代が到来しました。技術が発達して、人工で種を作れるようになったんですよ。それから、海苔生産1本となりました。私も小学校が終わったら夜中まで手伝っていましたね。技術の発達と共に二期作もできるようになって、安定供給ができるようになったんです。

Q・佐賀海苔は生産高だけではなく、もちろん高品質として有名ですが、それが一般消費者にはなかなか伝わっていない現状をどう思いますか?
A・これも時代の流れですが、昔はお中元やお歳暮等、ギフトのトップ3といえば"高級海苔"でした。持ち運びも軽いし、贈答品にはピッタリだったんですね。それが、宅急便業界等の発達により、缶ビールなどに抜かれてしまったんです。また、食生活の変化も挙げられますね。洋食スタイルの定着や、外食チェーンの台頭により、海苔業界全体の値段付けが下がってきたんです。海苔は漁協でセリにかけられますが、1枚あたりの単価がどの生産者が作っても、供給先が少なくなったから入札価格が全体的に下がり、値段もほぼ同額で取り引きされるようになりました。また、大量生産ができるようになったので、入札価格が下がったんです。そのような時代的な影響力が理由にあげられると思います。

Q・そういえば、美しい缶に入った海苔を思い出しました!今ではあまり見られない光景ですね…。しかし、海苔は主役ではないですが、日本人の食卓に欠かせないものですよね。
A・必ずといっていいほど、あるものですけどね。要はその品質、味ですよね。コンビニに行けば、パリパリの海苔を使ったおにぎり、しっとり海苔を巻いたおにぎり…と目にしますし。ほとんどの方が海苔をごはんについてるもの、という意識しかないんじゃないでしょうか。海苔って本当に美味しいものなんですよ。いつも若手生産者に言うことですが、「海苔はおにぎりの包装紙でいいとや!?」って(笑)。子どもは正直で、うちの海苔をおやつがわりに食べたら、他の海苔はもう食べられん、って言うそうです。それは、ずっと有明海で育ったおじいさん、おばあさん世代の影響があるんですね。人間の味覚は小学校6年生までで決まる、と良く言いますが、今になってその意味がよくわかりますよ(笑)。

Q・そういう環境で育つっていうのはうらやましい限りですね。
6月の今現在、海苔生産はどのようなことをされているのですか?

A・「海苔づくりは海の農業」と言われるように、天気相手にとても繊細な心配りが必要な仕事です。現在はオフシーズンで、10月から種付けが始まります。11月末から3月いっぱいが収穫時期です。二期作ですので、二回にわけ、約5日間かけて収穫を行いますが、取れたての海苔を"一番摘み"といいます。この5日の間でも1日1日、味が変わっていくんですよ!

Q・そもそも海苔に賞味期限ってあるんですか?味はやっぱり落ちるんですか? A・冷凍保管だと2年は大丈夫とは言われていますが、これも、海苔の作り方次第なんですよ。もちろん、保管において湿気は大禁物ですし、焼きすぎも美味しくないですからね。冷蔵熟成が美味しいと言われる方もいらっしゃいますから、好き好きです。でも、なるべく早めにいただくことをお薦めします。
 よく農業や漁業は"感覚"と言いますうよね。もちろんそれも大事ですが、基礎ができた上でのことです。海苔生産は子育てと似ていて、栄養分をたっぷりとらせて寝かせた後は、外に出して鍛える…いいところは延ばしながら、同時に厳しさを味合わせる…"成長と抑制"の繰り返しです。これが海苔生産の基本なんですよ。栄養分ばかり取り入れて、寝てばっかりじゃ、ひ弱なもやしっ子みたいな海苔ができてしまうんです。感覚というより、海苔の状態を観察しつつ、いかに繊細に心配りができるか、が大切ですね。

Q・海苔の世界って深いんですね~。現在、幻の海苔といわれている「アサクサノリ」の復活を手がけているとお聞きしましたが…?
A・現在、生産しているのは「スサビノリ」という品種です。「アサクサノリ」は食べないとその美味しさはわからないですね!昔はアサクサノリがほとんどだったので、その味が忘れられなくて、今10名ほどで復活させようと頑張っているところです。もし、復活させることができたら、漁協でのセリも別枠扱いになるぐらいの高級海苔になりますよ。アサクサノリは柔らかいので、病気になりやすく、今の時代では作りにくいんです。日本全国の海苔産地の中で、有明海産の海苔は"柔らかさ"が一番の特徴ですからね。

Q・今まで「海苔だけ食べる」という経験がなかったから、海苔本来の味がわからなかったのかもしれません。でも、流行の韓国海苔はお酒のアテやおやつに人気ですよね? A・昔から海苔を食べる文化は、日本と韓国にしかありません。欧米でも日本食ブームで寿司が流行っていますが、元々欧米の食文化=黒い食べ物はダメ、という図式があるんです。韓国での一人当たりの海苔消費量は日本の倍なんですよ。輸出では中国に負けますが、韓国の海苔生産者が私どもの工場に見学に来ることも多いんです。

Q・2年ほど前から、漁協を通さずに直販を始められたのこと。反響はいかがですか?
A・ここ近年の「生産者直売所」のにぎわいが、すべてを物語っていますよね。生産者の顔が見える、安心した美味しい食材の供給…。今までは、生産者は弱い立場だったのに、今、とても強くなっています。直販も、卸も、生産者がどの方向を向いているか、なんですよ。問屋さんか?漁協か…?私は海苔を食べる消費者の方向を向いてないといけないと強く思ってきました。これを外したら、楽な方向に流れて本末転倒になってしまう…。直販をやって思ったのは、消費者の声が今まで間接的だったのに、ダイレクトに伝わってくる、ということ。実にシンプルですよ。伝えるのもダイレクトですし、また中間業者が入らないので、単価は下がってお客さんは嬉しい。もちろん利益を出すのは絶対ですが…。

Q・しかし、今までの概念をぶち破ってるわけですよね。職人が営業をするなんて大変なことでしょうし…しかし、一番強い、と。
A・固定概念にとらわれていては、何も始められないし、何よりも食べ物は美味しくないといけないわけです。だから、もちろんしがらみ等いろいろありますが、反抗しているわけじゃないですよ(笑)。漁協ともお付き合いをしながら、直販もやる。ただ、海苔の美味しさをより多くの人に届けたいが、ためです!

Q・では、海苔の"本物の味"とは、どんな味のことを言うのでしょうか? A・海苔生産者が普通に作った、普通の海苔のことですよ(笑)。決して、頑固職人が作ったこだわりの味、でもなく、ストイックに作った究極の味でもなんでもない。海苔生産者が、海苔生産に忠実に向き合って作った、普通の海苔。これが本物なんです。技術は人間が使うものだから、+にも-にもなるわけですよ。そして、技術は自然の力に比べたら本当にちっぽけなもの。毎日、おてんとう様と付き合って、自然と共に生きながら海苔作りを行っています。すべてをそぎおとし、向き合った時に、本当の力が生まれ、本物の味が生まれるんだと思いますよ。その味を、ぜひ、一度お試しください!

海苔一式
「塩のり」は沖縄・石垣島産の塩を使った、「有明の風」の一番ヒット商品

こどもたち
海をきれいにする活動も地域の子どもたちを巻き込んで行っている。
「最初も海、最後も海」-環境活動を通した体験型観光「ブルーツーリズム」をいつか本格的に行うのが夢だそう

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Posted by さがファンショッピング  at 13:34 │Comments(1)佐賀海苔「有明の風」

この記事へのコメント

海苔業界がもっと盛り上がればいいですね!
Posted by おいしさの追求 ニコニコのり at 2009年09月21日 18:26
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