店主訪問記

2015年02月28日

有明海苔「有明の風」東島吉孝さん

有明海苔「有明の風」東島吉孝さん
有明の風
東島 吉孝さん

海苔漁師がお互い切磋琢磨し合う時代へ
最年長漁師が挑む、次なる道とは―?

 現在、海苔漁業のピークを迎える有明海。すでに初摘みの海苔をいただくことができ、おなじみ「有明の風」さんの「塩のり 初摘み佐賀海苔」を一枚…光にかざすと美しい緑色になる上質な海苔!口の中でとろける~!…っとグルメ取材ではないが、いつも話が溢れ出る東島さんに5度目のインタビュー。念願叶った海苔御殿でじっくりお話を伺った。



≪東島さんの熱い思いはコチラから≫
★「海苔はおにぎりの包装紙じゃない!」初インタビュー…2009年6月
★夫婦2人3脚―典子さん、夢を語る…2010年10月
★海苔収穫真っ最中に工場突撃!…2012年3月
★店舗大改装!「すべてはガレージから始まる」…2013年7月

Q・先に工場へオジャマします!シーズンもあと1カ月ですね。
A・現在は二期作7回目の収穫を行っています。この「肥前海苔グループ」の工場では私といとこによる「有明の風」と、別会社の3人が常に作業を行っているので、繁忙期には機械を24時間稼働させる日もあります。潮の満ち加減を毎日伺いながらの作業ですので、昨晩帰宅したのは午前3時。今日は午後3時半に船を出し、漁に出る予定です。

Q・田んぼの真ん中に海苔工場が集まっているのは不思議な光景です。
A・ここ西与賀地区には約15の工場が集まっています。1999年に佐賀市漁協が海苔養殖業の協業化をモデル事業としたのが始まりで、当時は私たちを含め3つほどの工場しかありませんでした。現在に比べて、田んぼのど真ん中に淋しくポツンって感じでしたよ。皆、自営業の集まりですが、大型乾燥機など様々な設備を共有しています。ここから歩いて数分で漁港なんですよ。

Q・田んぼから一転、ズラリと並んだ船が壮観ですね。でも泥の上に浮かんでいる!
A・ここは水源のない川なんです。有明海特有の干潟を流れる道筋が川として残ったもので、私たちは“江湖(えご)”と呼んでいます。佐賀は農業が盛んですから、昔から田んぼ周辺にクリークという天然の排水路である堀を巡らせていましたが、江湖はクリークに繋がります。だから、田んぼの真ん中に工場があるのも不思議じゃないんですよ。今は潮が引いて泥がむき出しになっていますが、満潮時になると3mの高さまで満ちます。その時に漁へ出かけるのですが、大体が早朝か夕方ですね。

Q・なるほど~!実際現場を見ると納得です。船も色とりどりですね!
A・この数年、世代交代が続いているので個性的な塗装を船に施す若手漁師もいます。この船は新船で1台、約3000万円するんですよ。家が一軒建つぐらいの金額です。基本的に船はメインとサブ、2人で動かします。海苔漁業の後継者は減ってはいますが、継いだ若手は確実に育ってきています。私の息子は別の世界で頑張っていますので、今後の課題は後継者と呼べる人材を育てることですね。私も4代目ですが、昔は親父の背中を見て育ち、後を継ぐのが当たり前という風潮にありました。でも今は親子でも別居する漁師家族も多いですし、全く海苔漁業と関係ない人間が飛び込んでくることもあるんですよ。私の方では今、親友の息子を預かっているんです。

Q・ほう!それは初耳です。一人前になるまでどれぐらい時間がかかるんでしょうか。
A・もう4年になりますよ。昔なじみの友人から「不景気で東京から帰ってきて失業中の息子がいる。叩き直してくれ」って頼まれて。責任重大ですよね(笑)。でも私のサブについて頑張ってくれていますよ。でもメインとサブではかなり大きな差があるんですよね。覚悟や心構えも違うし、天候にお伺いを立てながらの漁の段取り等、メインは頭脳労働が多いです。こちらは長年先代から受け継いだものなので、船をメインで動かせる自分の2代目を育てるには長い時間がかかります。こちらは海苔漁業者の共通課題ですね。

Q・現在、佐賀有明海の海苔漁師は何人程いらっしゃるのですか?
A・全国でも佐賀の海苔漁師はトップクラスと言われています。昭和20年代後半から始まった海苔漁業もピーク時には漁師は約2,400世帯いたそうですが、現在は約900世帯。しかし、生産量自体はずっと安定の傾向にあります。海苔漁業には多額の設備投資が必要です。最近、食品異物混入問題が良くニュースに取り上げられますが、昔、海苔にステンレスのかけらが残っていて大問題になったことがあるんですよ。それで、金属探知機を必ず導入しなければいけなくなり、それでも450万円ですからね。しかし、設備を共有することで安定して上質の海苔を大量生産することが出来ています。

Q・漁師同士の競争心も上手く影響しているのではないでしょうか?
A・それは大きいですね。個人商店の集まりですから、ぶつかることも多いですけど、競争原理が働いて、モチベーションが高まることは確かです。自分自身だけで安定してしまうと成長はありませんからね。ぬるま湯につかっているとほっとけば水は冷たくなってしまうのと同じで。安定している=良い時にこそ次の展開を考えないと、と思っています。それを最年長である私がどう仲間たちに引き継いでいくかも課題ですね。

Q・最年長なんですか!しかし東島さんは海苔直販におけるパイオニアですよね。
A・直販業を始めて今年で8年目。未だ後に続く人は出てきていませんね。海苔漁業は伝統業ですから、まだまだ旧態依然としていて、出る杭は打たれる世界。新しいことを始めるのはいろんな意味で大変でした。最近は全く別業界の人がふらっと現れて漁師をやりたい、直販をやりたいから話を聞かせてくれっていうこともあります。時代は確実に変化していますが、生産者サイドで直販業はやはり難しいのが現状ですね。

Q・でも「有明の風」さんはこの数年、オリジナルの加工商品も出し、塩海苔加工のOEMが大きな盛り上がりを見せるなど、反響は確実に広がっていますよね。
A・2年半前の店舗リニューアルやパッケージ変更の際、店舗は奥さんと妹に全面任せるようにしたんです。奥さんが新商品開発を担当し、妹が経営面を担当するようになって、私は海苔漁業全般に専念できるし、大分楽になりましたよ。震災から復興した宮城県の東松島市にある「のり工房矢本」さん(東北支援商品「黒こしょう 塩のり」 「梅塩 塩のり」)とのコラボも続いています。最近ではイギリス、台湾、アメリカなど海外から個人的に注文が来るようになりました。

Q・既に海外デビュー!まさに継続は力なり、ですね。
A・直販に関してはいろいろ試行錯誤しましたが、昔の努力が徐々に実を結んだのは嬉しいです。海外では黒い食べ物は敬遠されがちですが、日本食ブームもあるのでしょうが、「有明の風」の海苔を偶然にも選んでいただいたことに驚きます。最近ではホテルニューオータニの中華料理レストランや、福岡市内のレストランでバラ干し海苔「そのまんま海苔」と「生海苔」が使われています。現在奥さんが、新しい商品を開発中です。

Q・「梅入り初摘み海苔佃煮」、やめられないですよね~。スタッフの子どもたちも海苔をおやつ代わりに食べていますよ!外国人の友達にもヘルシーと人気です。
A・そうやって日常で海苔の美味しさを知っていただくのが、一番嬉しいですし、ずっと望んでいたことです。「梅入り初摘み海苔佃煮」は構想数年、商品化まで半年かかった奥さん悲願のヒット商品です。ごはんのお供にと本で取り上げられたり、といろいろな人に海苔を食べていただく機会が増えてきました。

Q・そういえば、海苔御殿を最近お建てになられたそうで。オジャマします。うわ~オシャレ、ステキ!ドラマのようです。外観も何気に海苔色なのは偶然ですか?
A・偶然です(笑)。ドアトゥドアで仕事に行けるのが一番ですね。昭和30年代は1シーズンで海苔御殿が建てられるほどでしたが、私の世代では多くの設備投資で家まで資金が回りませんでした。こうやって、数十年の努力が実って海苔御殿を建てられたということは、ようやく安定期に入ったということです。2人目の孫とこうやってリビングでゆったりくつろぐ生活も良いですよ~。これで思い残すことなく現役を引退できます。

Q・何を淋しいことを!まだまだ現役でいてくださいよ。来年は船に乗せてください。
A・今63歳ですが65歳までは頑張ろうと思っています。先のことはその時考えます。 次に取材に来られたら、もしかしてピアノの上で猫のように小さく丸くなっているかも(笑)。いやいや、船の上で海の男の雄姿を見せられるよう、頑張ります!

船1船2
船3船4
“江湖(えご)”に並ぶ海苔漁船。潮が満ちた時は水位が3mとなり、漁の時間となる。

東島夫妻本
昨年11月には、「明治神宮秋の大祭全国特産物奉献式」にて、全国から奉献された特産品と共に境内に展示。その時の賞状を持って。また「ふるさと雑穀のっけごはん」という本では、「塩のり」が都道府県別対抗で準大賞を受賞。


≪のりが出荷されるまで≫

工程1
地下のダクトを通り、海上の船から運ばれた海苔は鮮度を維持するため、混ぜ続ける。


工程2工程2
葦の葉や渡り鳥の羽など異物を取り除いた後、真水を入れてミンチ状にして洗浄する。


工程3
水分を押し出して、「21㎝×19㎝」の海苔の形に。紙すきに似た工程だ。


工程4工程4
光を当て、規定の暑さをチェック。乾燥室に運ばれ約2時間半乾燥させる。


工程5工程5
乾燥が終わった海苔が一枚一枚順々に運ばれ、機械内臓カメラで傷がついてないかがチェック。

工程6  
工程6 工程6

海苔は10枚セットとなり、規定の重さをクリアしたら10枚×10束の形で出荷へ。

工程7 工程7 工程7
工程7

最後は人間の目でチェック。機械でひっかかった海苔は遠赤外線カメラを使いゴミがないかくまなく調べる。そして段ボールにきれいに積まれ、出荷を待つ。

>> 有明の風の商品はこちらからご購入いただけます。



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Posted by さがファンショッピング  at 17:00 │Comments(0)佐賀海苔「有明の風」

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