2015年06月30日
「想ひで提灯」服部 潤さん
(株)服部茂樹商店
代表取締役
服部 潤さん
想いをカタチに―選ぶ過程に感動を!
心を伝える盆提灯の有り方を実現。
日本人なら誰もが触れる行事、お盆。中には盆行事を行わない地域もあるが、必ず見たことがあるのが盆提灯だろう。時代の流れに伴い、全国的に盆行事が簡素化されている昨今、提灯2大ブランドの一つ、伝統工芸・八女提灯を作り続けて今年で64年になる「服部茂樹商店」。盆提灯を贈る相手、そして故人を迎える家族の想いを何よりも大切に提灯づくりを行う老舗が作った、新しいカタチの盆提灯が話題になっている。「さがファン」限定の「想ひで提灯」はどのようにして生まれたのか…?3代目の服部社長を訪ねた。
Q・盆提灯といえば、国内では八女と岐阜が2大ブランドですね。大きな違いは?
A・盆提灯は全国、地域ごとに形や大きさが変わってきますが、八女も岐阜も技法に大きな違いはありません。私たちの会社も盆提灯メーカーとしてここ八女であらゆる地域の盆提灯を製造し、全国各地におろしています。八女の地では江戸時代後期に手すき和紙、仏壇、石灯篭、そして提灯と多くの伝統工芸品が生まれ、今まで受け継がれてきました。八女提灯も岐阜提灯も、国の認定を受けた伝統的工芸品ではありますが、年々、手作り提灯における背景は変わりつつあります。
Q・近年では盆行事が簡素化の傾向にあるようですね。盆提灯の需要はいかがでしょう?
A・最近では、お盆の習慣が薄れていっていると感じますね。盆提灯においても、昔は専門の職人が一つひとつ丁寧に手作りしていましたが、ここ10数年で海外の工場で大量に生産するという流れが大きくなっています。そして量販店で安価で売り出したり、ネットでは数千円で購入できる提灯が並んでいます。確かに、時代の流れに沿ってスピードやシステム化に力を入れるのも大切なことかもしれません。しかし、その中で盆提灯本来が持つ意味合いこそが薄れているような気がするんです。価格競争はそれであっていいと思うんですが、提灯をただの“モノ”として扱っているメーカー、販売店、そしてお客様が多い気がして、ずっとその状況を憂いていたんですよね。
Q・確かに気軽に盆提灯が購入できるようになりましたが、目的が変わってきているということですか?
A・そもそも、盆提灯は贈る相手があってこそのモノです。昔は人形屋など専門店での対面販売がほとんどで、販売員がお客様に故人の話を聞きながら、想いに沿った盆提灯を提案していました。盆提灯を飾るということは、贈る相手を想い、しのび、家に温かく迎えたいという気持ちのあらわれです。ですので、その想いの強さから高額の商品も良く売れていました。そこには必ず人と人の対話があり、そして想いの交換があったんです。こういった、盆提灯を購入するまでの過程こそが大切だと私は考えています。盆行事という故人を迎える“コト”の中に、盆提灯という“モノ”があるんですね。しかし、現在ではただ“モノ”だけが出回っていると思うんです。量販店やネットでは贈る相手のことや家族の想いは見えませんよね。盆提灯が形式的に必要だから買おう、どうせ買うなら安くて手軽なモノがいい、という目的で購入する人も増えていると思いますよ。そうなると、これからもう買わなくてもいい、という選択肢もおのずと増えてくると思うんです。
Q・服部さんのところでは、製造専門会社が隣接しているそうですね。
A・先に話しました通り、現在、提灯を取り扱う会社といったら製造は海外の工場に発注し、販売するだけの会社、いわゆる商社ばかりです。私たちの提灯づくりは、職人に直に会い、作り手の想いやこだわりにも触れ、それをお客様に伝えていくことがモットー。もちろん、海外の工場にも製造してもらっていますが、それがメインではありません。同じ八女でも職人さんを使って盆提灯を作っているメーカーは大分少なくなってきています。私は、あくまでも職人の手による想いの深い盆提灯をつくりたいと思っています。
Q・そんな想いの中で3年前に「想ひで提灯」は生まれたんですね?
A・はい。ある時、商品をネットで売ったら?という意見をいただいたんですよ。でも、到底そんな気持ちにはなれませんでした。たしかに販路は拡がるし、違う可能性が見えるかもしれない…でも、販売員もいない、会話もない、想いが介在しないネット販売なんて、やっぱり無理と思っていました。そこで、いろいろ考えたんですけど、偶然、お酒を飲んでいる時にひらめきまして…(笑)。想いを盆提灯そのものに込めればいいんではないか?と。販売員はいないけれど、商品が喋ってくれるようなモノにしたらどうだろう?と思って、生まれたのが「想ひで提灯」です。
Q・これは画期的な盆提灯ですよね。見ていて、想像が広がり温かい気持ちになります。
A・まず、社員に家族がどんな趣味を持っているかなどアンケートをとりました。そして、現在12種類の「趣味タイプ」の提灯が出来たんです。その後、「メッセージタイプ」の提灯を作りました。でも最初は鳴かず飛ばずだったんですよ…。私はもし、この提灯への注文がゼロだったら、提灯屋やめてやる、なんて息巻くぐらい(笑)の挑戦でした。日本人の持つ根底の想いというものを確認したい、という気持ちがあったんです。でもネット販売自体が初めてでしたので、仕組み等勉強もしました。そして「さがファン」担当さんのサポートもあり、口コミで徐々に反響が出だしたんです。
Q・購入された方のアンケートを読みました。とても良い反響ですね。
A・「想ひで提灯」を選んでいる時間に、故人がイキイキと趣味を楽しんでいた姿を思い出したり、久しぶりに家族みんなで集まり、「想ひで提灯」を囲みながら話が弾んだり…、まさに「想ひで提灯」は、想いをカタチにした盆提灯です。こちらは、隣接の工場で作っているんですが、注文主の想いに触れ、涙ぐむ職人もいるんですよ。
Q・「さがファン」のみでの販売ですが、直接、注文主にお会いしなくても、想いが伝わってきますね。
A・ネット販売だと通常は「迅速な配送対応がよかった」とか、いわゆる“モノ”としての商品に対してのレビューや感想が多いですが、「想ひで提灯」の場合は、「家族が近くにいるような気がする」「お盆で話が弾みました」といったような背景のある感想が多く、いや~、私は間違っていなかった(笑)、やって良かったと本当に思いますね。今、雑誌等メディアを使い、全国にアプローチしていますが、今年のお盆に向けて、注文が少しずつ増えてきている状況です。
Q・これだけステキなものだと、類似商品が出てきたりしませんか?
A・もう既に出ていますよ。先にも話しましたが、想いや過程がなくても提灯は作ることができるんですよ、結果として。でも私はそれをしたくない。売れているからマネしよう、と簡単にマネはできます。でもマネする方に回りたくありません。「この商品を買って良かった」ではなく、「この会社、この人に頼んで良かった」と言われるような存在になりたいですね。
Q・これから、繁忙期に入ってきますね。お盆以外で何か商品開発などの予定は?
A・繁忙期の夏以外は、商品管理を主に行っているんですが、これからは新しいことにチャレンジしていきたいと思っています。年内には盆提灯の技術を生かした、1点モノのオリジナル新商品を作る予定です。こちらは通年使えるモノになる予定で、完成したら「さがファン」にも情報を載せますので、楽しみにしていてくださいね。商品開発という新しい挑戦をベースに、いつかアンテナショップのような実店舗を持てたらなと願っています。
現在「趣味タイプ」は12種類。今後、また新たに種類が増えて行く予定。「メッセージタイプ」はセミオーダー式、名前はメッセージタイプのみ完全フルオーダー式だ。
提灯の絵柄をチェックしたり、パッケージの為の下準備など、一つひとつが手作業。ココから全国へ提灯が送られてゆく。
八女市の田園の真ん中にあり、自然に囲まれた「服部茂樹商店」。
「想ひで提灯」はコンパクトな上、コードレスで持ち運びが便利で、現代の生活にマッチした作りで新たなユーザー層を生み出している。
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