店主訪問記

2012年03月01日

有明海苔「有明の風」 東島吉孝さん

有明の風 東島吉孝さん
有明の風
東島 吉孝さん

“海苔は生き物”を今季、再実感。
厳しい天候で生き抜いた味とは―?

 2月といえば有明海において、海苔漁業のピークだ。そんな繁忙期に取材に行って大丈夫…? 「有明の風」さんは「さがファン」で唯一の海苔扱い店。そして漁協を通さず直販を行い、加工品開発にも取り組んでいる県内でも稀有な存在だ。2年半前の6月、1年半前の9月、と過去2回の取材はオフシーズン期。そのたびに熱~い話をゆっくり聞けたのだが。今回はお店ではなく工場を直撃。変わらず店主の東島夫妻が笑顔で迎えてくれた。



Q・海苔工場には初めて来ましたが、今一番忙しい時期では…?
A・そうです、2月は海苔収穫の真っ最中ですよ。現在は二期作8回目の収穫を行っています。この工場では5人が作業をしていますが、大体一人一日3万5千枚、つまり段ボール10箱ほど出荷しています。早朝海で収穫して工場で作業を行い出荷、の繰り返しですが、今日あたりは夕方には帰れそうなんですよ。ピーク時には夜中までかかることやほぼ24時間態勢になることもあるんですけどね…今季はそれがないんです。


Q・やはり昨夏の猛暑が大きかったんですか? おととしの夏に取材しましたが、その夏も猛暑でしたね。
A・おととしに比べ昨夏は猛暑の前、梅雨時期に雨が多かったでしょう。海苔生産において“高温多雨”のコンディションは一番厳しいんですよ。雨が多く降ると海水が真水化しますし、水の温度も下がります。そして猛暑によって急に水温が上がり、苗がいい状態に育たなかったんですね。10月上旬に網に張った苗を海水に沈めていくのですが、その段階で「今季はダメだ」と確信してしまいました。結局、おととしに比べ半作、つまり5割しか収穫できなかったんですよ。史上まれに見る不作でした。長年海苔漁業に携わってきましたが、こんな経験は初めてでした!


Q・今、「さがファン」を始め、市場に出回っている海苔は、いわゆる「新海苔」ですよね。半作ということで収穫量は少なかったと思いますが、質はいかがでしょうか?
A・私たちは二期作を行っているので、まず10月に海水に沈めた網の苗が3~4㎝成長したところで全体に張った網の半分を引き上げ、冷凍保存し、成長をストップさせます。もう半分の海に入ったままの網の海苔はその後も成長を続け、11月頃に収穫し、「秋海苔」「新海苔」として12月のお歳暮シーズンに間に合わせるのですが、今回は量も少ないし、質もあまり良くなかったのでお客様への供給が上手くできず大変でした。現在、市場に出している商品は二期目の新海苔です。質としては一期目より安定して美味しいですが、こちらも量が少ないので出ているものは選りすぐりの逸品ばかりなんですよ。


Q・シーズンに入る前、苗の状態で収穫までが想像できるんですね。「有明の風」さんは直販ですし、ファンやリピーターが多いので、供給も難しかったのでは?
A・上手く育たなかった苗を見て、さあ、今季はどう海苔をお客様に提供していこう?と思いましたね。お客様はリピーターさんがほとんどなのですが、いくら不作でも「新海苔」でも昨年と同じクオリティーのものをお出ししないといけません。お歳暮シーズンの時、供給が間に合わなかった時は「新海苔より昨年の海苔の方が美味しいですよ」と正直にご提案差し上げたこともありました。でも、生海苔では顕著に品質の良しあしが現れますが、加工の段階で変化が訪れることもあるんですよ。


Q・私たちがいただくのはほとんど加工された後の海苔ですから、消費者にとっては普段と変わらない状態ですよね。
A・そのために裏方では四苦八苦だったんですよ。でもこの頃、生海苔を商品加工する段階で低温貯蔵すると、甘味が少し増すことに気が付いたんです。以前はそんなことがなかったんですが、まるでお酒のように、海苔も寝かせるとよりまろやかになっていく変化に気づきました。さすがに「熟成海苔」として売り出すのは違和感もあるし、前例がないので止めましたが(笑)、半作でも、最悪のコンディションでも、加工して商品としてお客様に届ける際には想像以上の良いものが出来上がったんですね。こちらも長年海苔漁業を携わる上で初めての体験でした。


Q・見えないところでいろいろ苦労があるんですね。でも、いくら厳しい状態でも手間ひまをかけたことは報われているんですね。
A・コンディションは悪かったけど、ベストなものができたのは嬉しかったですね。結果オーライといいますか。海苔は子育てと一緒で栄養分をたっぷりとらせて海の中で寝かした後は、外に出して鍛える…の繰り返しで、それは干満の差が激しい有明海ならではでき得ることです。いわゆる“成長と抑制の繰り返し”が美味しい海苔に成長させるんです。ですが、今季はその育て方ができ得る環境にありませんでした。どんなに私たちの経験や技術を総動員しても、自然、天候には逆らえないということを身を持って体感しましたよ。現在は、海苔は子ども、というよりご主人様ですね(笑)。毎日収穫量は想像つかないし、明日の予定も立ちません。でも、なんとかやっていけてるのは、やはり見えないところで私たちが力を注いだ結果が出ているのでは?と思っています。


Q・生産は厳しかったとのことですが、「有明の風」さんでは新商品の売れ行きが好調と聞いています。
A・現在の海苔漁業においては、やはり生産だけやっていては生き残れませんからね。今季の厳しさで痛感したことは、「成功体験にしがみつかない」こと。海苔漁業は衰退の一方ですが、ピーク時を知っている海苔師さんたちは、一番美味しく、一番価値が高かった海苔の時代を忘れられないところもあります。私もそうです。昔は、ワンシーズン終えたら海苔御殿、といって家一軒建てられるほどでしたからね。バブルと一緒で、もうそんな時代は来ませんから(笑)、ならば、どう海苔を主体に広げていくか、と思っています。その一つが商品開発で、加工業務や直販というわけです。


Q・「コラーゲン塩のり」や「風香味」など女性に人気の商品が並んでいますね。
A・おかげさまで、健康志向からか、「コラーゲン塩のり」は女性に限らず売れ行きが好調です。最近出た「風香味」は従来の「そのまんま海苔」を焼いて香りを出したバラ干し海苔です。通常の海苔のようにミンチにしないのでより香りが深いんですよ。こちらは「一番海苔=新海苔」ではないですが、食材としては使い勝手がよく、お味噌汁に食べる直前に入れていただくとその良さがおわかりになると思います。先日は、HPで調べたのか千葉の業者さんから「風香味」を500㎏くださいという注文が来たんですよ! ラーメンのカヤクに入れるためだったようですが。もちろん供給が間に合わずお断りしましたが、面白い展開もあるんだなあと実感しています。


Q・今回もやっぱり熱い話でしたね! いつかは“海苔専門店”を作るのが夢だと、ご主人、奥さまお二人とも以前は語られていましたね。今後の展開はいかがですか?
A・その夢はずっと変わりませんよ。海苔街道を作りたい! 食べる海苔以外にも商品を開発したい! 直販をやっていると生産者、販売者、消費者の立場がすべて見えてきます。この厳しい時勢において、どちらかに儲けの比重が傾くのではなく、Win-Winの関係を保っていかないといけないですよね。そして、一番大事なのは“美味しい海苔”をお客様に適正価格でお届けすること!! それも絶対に変わりません。また、来年度、今年の4月から、震災で壊滅した宮城の海苔漁業の立て直しのフォロー業務にも携わっていきます。いろんな意味で忙しくなりそうです。まだまだ引退はできませんね(笑)。

工場  
工場 工場

冬のピーク時は24時間稼働になることもある工場。右は海を元気にする肥料だ。


工程1
地下のダクトを通り、海上の船から運ばれた海苔は鮮度を維持するため、混ぜ続ける。


工程2工程2
葦の葉や渡り鳥の羽など異物を取り除いた後、真水を入れてミンチ状にして洗浄する。


工程3
水分を押し出して、「21㎝×19㎝」の海苔の形に。紙すきに似た工程だ。


工程4工程4
光を当て、規定の暑さをチェック。乾燥室に運ばれ約2時間半乾燥させる。


工程5工程5
乾燥が終わった海苔が一枚一枚順々に運ばれ、機械内臓カメラで傷がついてないかがチェック。

工程6  
工程6 工程6

海苔は10枚セットとなり、規定の重さをクリアしたら10枚×10束の形で出荷へ。

工程7 工程7 工程7
工程7

最後は人間の目でチェック。機械でひっかかった海苔は遠赤外線カメラを使いゴミがないかくまなく調べる。そして段ボールにきれいに積まれ、出荷を待つ。

店主
夫婦二人三脚で海苔の美味しさを伝えている。『有明の風』はご主人のいとこ夫婦と一緒に2家族で運営している。


めんたい塩のり
大人気の『めんたい塩のり』。明太のつぶつぶは専用の接着剤を使わず、自然に海苔にくっついている。


石垣の塩
味付けに使う塩はミネラルたっぷりの『石垣の塩』を使用。


海苔一式
塩のり」は沖縄・石垣島産の塩を使った、「有明の風」の一番ヒット商品


こどもたち
海をきれいにする活動も地域の子どもたちを巻き込んで行っている。
「最初も海、最後も海」-環境活動を通した体験型観光「ブルーツーリズム」をいつか本格的に行うのが夢だそう


>> 有明の風の商品はこちらからご購入いただけます。



同じカテゴリー(佐賀海苔「有明の風」)の記事画像
塩のり工房「有明の風」東島 香代子さん
塩のり工房「有明の風」東島吉孝さん
塩のり工房「有明の風」東島 香代子さん
有明海苔「有明の風」東島吉孝さん
有明海苔「有明の風」東島吉孝さん
同じカテゴリー(佐賀海苔「有明の風」)の記事
 塩のり工房「有明の風」東島 香代子さん (2018-08-31 17:10)
 塩のり工房「有明の風」東島吉孝さん (2017-09-06 17:04)
 塩のり工房「有明の風」東島 香代子さん (2016-05-31 17:00)
 有明海苔「有明の風」東島吉孝さん (2015-02-28 17:00)
 有明海苔「有明の風」東島吉孝さん (2013-07-31 17:13)
 有明の風 東島 典子さん (2010-09-27 13:57)

Posted by さがファンショッピング  at 19:58 │Comments(0)佐賀海苔「有明の風」

※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。