2005年08月31日
丸ぼうろ:古河 義継さん(株式会社 北島 工場長)

株式会社 北島
工場長 古河 義継
“歴史もあれば未来もある”― 老舗ならではのお菓子づくりのこだわり
北島の創業は元禄9年(1696年)にさかのぼる。当時は数珠屋であり、次第に取扱い商品を増やしていき、1700年代江戸中期には諸式屋(今でいうと総合商社)として、鍋島藩の御用商人に取り立てられた。幕末期には時勢の変化に合わせて、菓子業に専念。本店の真横を通る長崎街道から、異国の情報や砂糖などの物資かどんどん運ばれ、そこでマルボーロと北島は運命的な出会いをするのである。食うや食わずだった戦時中も、マルボーロは生き続けた。そして今日にいたる理由はなんだったのだろう。それは、北島が歴史をかさに、決して守りの態勢に入ることなく、未来に向けて、常に攻めの態勢であることにこだわっているからだった。Q・変わらない美味しさを保ちつづける、丸芳露づくりの秘訣は何ですか?
A・こだわり抜いた原料と手作業という2つです。丸芳露の原料は小麦粉・卵・砂糖のみとシンプルですが、小麦粉は佐賀の山・海両方からとれるものを数種類ブレンドしています。それも、気候や湿度によって配分が全然変わってくるんですよ。だから、製造工程はすべて手作業。毎日の午前と午後に作ったものでも、味が微妙に違うんです。
Q・手作業の中で、一番気を使う工程はどこでしょうか?
A・生地を揉む時ですね。その瞬間の温度や湿度の状態で、空気をどれだけ抜くか、小麦粉をどれだけ足したり、引いたりするか。ここで丸芳露の味が半分決まります。そして、最低2時間生地を休ませた後、型抜きをしてから釜に入れるんです。
Q・これは熟達した職人さんではないと出来ない技ですね。
A・もう長年の勘ですね。私は34年やっておりますが、それでも「この丸芳露は素晴らしい!」というものに出会えるのは1年にたった1~2回なんです。職人は10年たって、やっとお菓子づくりの入口に入れるんです。丸芳露のような単純で、素朴なお菓子だからこそ難しい。毎日が発見で勝負ですよ。
Q・丸芳露独特の“外はカリカリ、中はふんわり”はどうやって出来上がるんですか?
A・動く鉄板に型抜きした生地を乗せて行き、5分かけて釜のトンネルに進ませます。そして釜に入ったら、クッキーを焼く時よりも数10℃ほど高い、230~250℃で5分の短時間で一気に焼き上げます。そして釜から出てきたものを袋詰めする作業が5分。このたった15分がすべてなんです。このタイミング次第で味もまた微妙に変化してしまうんです。
Q・丸芳露のベストな食べごろっていうのはあるんですか?
A・賞味期限は14日間ですが、焼いて1日たったものと、1週間たったものでも味は変わります。やはり、焼き菓子にも鮮度があって、それは生菓子と一緒で1~2日でいただくのがベストですね。お買い上げいただいて、冷凍庫にすぐに入れるのもオススメです。鮮度を逃さずにいただけますから。自然解凍でもレンジでもOKです。もともと、丸芳露はポルトガルの保存食でしたので、冷凍したカチカチのものを食べるのも美味しいんですよ。
Q・老舗ののれんを掲げ続け、人々に北島さんが愛される理由は何だと思われますか?
A・常に進んでいこう、攻めていこうという態勢にあると思います。老舗というと、守りの態勢に入りがちですが、「北島」には家訓というものがないんですよ。完成形もなく、未完成かつ自由なんです。ただ、先代が作った丸芳露のレシピが基本であり、それを軸に膨らませるという自由という意味です。そして目的もひとつ。食べられた方に「美味しい」という幸せを味わっていただくこと。その2つが理由だと思っています。
Q・今後、北島さんはどう進んでいかれるのか、楽しみですね。
A・佐賀の小学校で実演をしたり、子供たちを工場見学に呼んだりという活動もしています。また、定番以外にも、月ごとに新しい和菓子と洋菓子を出しています。9月はお月見のおだんごとおまんじゅうを予定していますよ。
お菓子は嗜好品ですので、食べなくても構わないものですが、戦後も横の長崎街道の道端で手作り釜を出し、丸芳露を量り売りしていたんですよ。お菓子は私たち作り手にとっては、クリエイティブな喜びを与えてくれるもの。それを受けてくださったお客様が幸せだと感じてくださる時を継続させていくのが今後の北島の使命と考えています。100年、200年先の未来も美味しさが続くように。

マルボーロの生まれた地、ヨーロッパをイメージした、ブルー&イエローが北島カラー。
白山町本店には工場が隣接されている

開放的で高級感あふれる店内。取材をしている間も、平日だというのにお客さんの足が絶えることはなかった

丁寧な接客が印象に残るスタッフの皆さんの素顔は気さく。「店頭でもお待ちしております!」

店内では一連の製造工程を描いた映像をモニターで観ることができる

カップにミルクを注ぎ、レンジで温めるだけでできる「マルボーロプティング」は北島独自の提案。プティング用のカップ&ソーサー(有田の深川製磁のもの!)も販売

色鮮やかで美しい和菓子は、1個100円以内から販売している。他の焼き菓子もバラ売りで売ってくれるのもうれしい

本店の前、白山名店街の入口は江戸時代初期に創始された佐賀独特の染色品・鍋島更紗の発祥の地の碑が建っている

本店の真横を通る白山商店街は、かつての長崎街道~シュガーロード。ここを通って異国の情報や砂糖を含む物資が運ばれていき、全国に広がっていった。商店街を抜けると歴史民俗館のある街道に出、そしてずっと小倉まで続く
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