店主訪問記

2008年11月28日

佐嘉の絲 吉本文雄さん

200812 吉本郁雄さん
(株)ヨシモト (有)佐嘉の絲 代表取締役
吉本文雄さん

チャレンジの継続から、原点回帰へ-。
新しい試みが、可能性の扉を開く。

 風景で季節を感じられる佐賀。現在、佐賀南部の有明海ではノリヒビといわれる海苔養殖の竿が整然と並び、初冬の訪れを教えてくれる。佐賀平野にたなびく黄金色の麦のじゅうたんは、初夏の来訪の証だ。自然に囲まれた美しい農産国・佐賀県。全国でも有数の高級海苔の産地、小麦の生産高は北海道に次いで全国2位。海苔・小麦…この2つの名産を1つにミックスした"新しい佐賀の名産"ショップが、11月12日に「さがファン」にニューオープン。来年春から佐賀市近郊の小学校で給食の献立にものぼる予定の、"100%佐賀産海苔麺"。地産地消をコンセプトに新たな追求を始めたばかりの「佐嘉の絲」さんは、緑の山々に囲まれた大和町に事務所を構えている。話を伺いにさっそく足を運んだ。


Q・海苔と小麦どちらも佐賀の名産ですよね。そしてそうめんといえば神埼。それらを全て1つの商品に仕上げたいきさつを教えてください。
A・遡ると私の小学校時代が原点なんですよ。私は長崎の雲仙生まれで、祖父、父が漁業を営んでいたので、海苔は身近なものでした。養殖海苔収穫の手伝いの中で、九州産海苔の品質の素晴らしさを肌で感じていたものです。当時、約50年前は海苔一枚10円だったんです。しかし、子ども心でも関心を示したのは、佐賀の有明産海苔は一枚50円。海苔生産者は1年で蔵が4つ建てられる、なんて話を聞いたものです。高級海苔との出会いが、今にいたるきっかけでしたね。

Q・そして月日が流れ…「佐嘉の絲」さんの創立は平成16年、4年前と聞きました。それまで何をなさっていたのですか?
A・「佐嘉の絲」の母体は(株)ヨシモトという会社です。私は実家の稼業を継ぐつもりでしたが、いろいろ学びたいという想いから、長崎の農林省(現・農林水産省)に入庁しました。食料事務所の検査官として、米の等級検査の仕事をしていたのですが、やはりもっともっと現場でいろいろ学びたい、という意志が強く安定した仕事を2年ほどで辞めてしまったんです。それからは旅をしながらフリーター、かたわらで通信制大学の勉強もしていました。そんな若い時、広島で冠婚葬祭に関わる仕事に携わっていまして、その本社が佐賀へ進出を決めたんですね。その流れで佐賀にやってきまして…本当、振り返れば紆余曲折でした。この時点で海苔や小麦は全然出てきませんから…。約30年前の話です。
 会社が佐賀にて(株)ヨシモトと名を改めた後は、冠婚葬祭以外にもいろいろな仕事をしました。冠婚葬祭施設内の喫茶店の経営や、ドライブインの経営など…その中で出会ったのが、佐賀では有名の(株)サン海苔さんだったんです。 

Q・やっと海苔にたどりつきますね。それはいつ頃の話だったんですか?
A・もう…いや、まだ、ですかね。7~8年前だったと思いますよ。そこで、佐賀駅構内にある、佐賀県漁連の直売店(=アンテナショップ)が経営危機にあるという話をお聞きしまして。そこでは有明産の高級海苔を取り扱っていたんです。ここで、私の原点である「海苔への想い」がよみがえってきて、「どうせ、店を閉めるなら私たちの会社に経営権を預けてみてはくれませんか?」とお願いしてみたんです。

Q・それから、直売店をたてなおしていかれたわけですね?どのような方法で経営危機から救ったんですか?
A・まず、手がけて強く思ったことは…これは良く言われることですが、「地元の人間には、品質の良さが客観的にわからない」ということです。外から見たら、とても品質のいいものなのに、それが当たり前だと思っているんですね。つまり、自己評価が低いんです。私は小学校の頃から、佐賀産の海苔に憧れていましたから、その素晴らしさを漁連の幹部の方にえんえんとアピールしました。これには、漁連の方も驚かれたようで、あらためて、「本当に高品質な海苔とは?」という認識と誇りを地元の方も持たれたようです。そう、生産高は全国一というのは周知でしたが、品質も全国一だ!ということを、ですね。

Q・そこから海苔を利用した事業が始まったわけですね。つまり「佐嘉の絲」の創立と。
A・市場に出す有明産の海苔は、きれいにカットしますので、パンの耳のように端っこが余るんです。そこに目をつけまして。端っこといえど、品質は一緒です。今まで捨てていたものを利用できないか、と考えて、考えて…ある日、ハッとひらめいて!ええ、トイレの中でしたね(笑)。元々、栄養価値の高い海苔に、何か穀物を混ぜたら素晴らしい健康的な食品ができあがるんじゃないか、と思っていまして。じゃあ、その穀物とは…佐賀は小麦の生産高は全国2位、神埼そうめんも有名、そして麺は腹もちもいい、うどん、そば…そして洋食ブームでパスタが人気…万人が好む麺を海苔にミックスさせたらどうか!?と。そして、本格的に海苔+麺づくりのために新規事業部として、新しい会社を4年前に設立することにしたんです。

Q・実際、商品化にあたって苦労したことなどはありますか?
A・まずは海苔粉末と小麦粉の配合具合ですね。現在は小麦粉100:海苔粉末4で配合しています。4とは、海苔2枚分を粉末にしたもの。0.5単位で海苔粉末を混ぜながら、味や色、風味を試していったわけですが、今のところこの配合がベストですね。それは、供給の問題もあります。理想は海苔粉末5の割合なんですが、そうなるとコストが割り高になりますから。将来的にはこの配合割合に持っていきたいんですけどね。
 実際、漁連の方が、市場に出す海苔ではなく、出来損ないの安い海苔を使って麺作りにチャレンジしたそうですが、結果はまったく風味もなく、美味しいものではなかったそうです。アイデアは同じですが、素材が「高級海苔」というところに意味があるんだ、と実にわかりやすい例を見させていただきました。

Q・小麦も県産、海苔も県産、安定した供給が必要になってきますね。
A・そうですね、ある程度天井を決めておかないと、商品の質が落ちますし、またコストが高くなります。海苔も小麦も供給どころを決めていて、大変お世話になっているんですが、製麺の方は神埼にある工場でお願いしています。なので、どうしても商品生産に限界は出てくるんですよ。

Q・でもこんな珍しくて美味しい商品なら、発注希望や販売促進アイデアが周りから湧いてくるでしょう?
A・もちろん、それはあります。「冷凍麺にしてみたら?」とか、「もっと販売地域を増やしたら?」とか。…そう、事業拡大ですね。そうできたらいいなあ、と思うこともありますが、基本的に私の考えは、「美味しくて、体にいいものを皆さんにお届けしたい」。それだけなので、商品には真剣ですが、商売の方には執着しない性格なんですよ(笑)。もちろん、販売促進を練れば、利益は上がるでしょうが、利益重視になると多分自分が辛くなるかなぁ、って…。「お金は分相応、楽しく仕事ができるのが一番」と思って、自分自身、ちょっとビジネスの側面から距離を置いてるんです。私や、周りの皆さんが作った愛する素晴らしい海苔麺を別の側面から追求することで、嫌いになりたくないって想いは強いですね。まるで恋愛みたいですよね、相手のことをあまり追求しない方がいい、ほどよい距離を持てばうまくいく…って(笑)。「人生、何事も"丁度よし"」でやっていきたいんですよ。

Q・海苔麺は来年の春から、佐賀市近郊の小学校の給食献立にのぼるんですって?
A・ずっと、健康食のPRとして老人ホームに営業していたんですが、その施設の栄養士さんが、「子どもたちにどうだろう?」という話を持ちかけてくださって、10数校で実現することになったんですよ。一体、どんなレシピになるのかこちらも不明で、楽しみにしているところです。そうやって、地産地消、地域の食育分野に一役買ってくれる、そういうところに喜びを感じます。利益はとんとん、でいいんです。自分や従業員が毎日ごはんを食べられるだけでいいんじゃないかって。お金ではなく、別の場で海苔麺が力を発揮してくれれば、素晴らしいなと思います。12月も初旬から、上海の商談会に行くんですが、ビジネスだ!と意気込んではいませんよ。いろいろ、中国の食事情を学びたい、食べて、遊んで…何かを得てきたいですね。商売は商売ですが、力を入れすぎず、現状を把握しながらやっていく、それが私なりの「丁度よし」だと思っています。

Q・では、今後の展開希望も、そう壮大なものではない、と?
A・そうですね。「さがファン」に店をオープンしたのは「こんな素晴らしいものがあるよ」とPRしたかったという理由からですが、今、できること、すべきことをやっていきたいです。今後どうなるかはまだあまり見えてきていません。その時はその時考えよう、って感じですね(笑)。人生には、余裕が必要だっていつも思っていますから。車のアクセルには遊びの部分が必要、というように。おかげさまで、娘が「のりのりマン」の名前で書いているさがファンブログも好評で、以前に比べ、大分コミュニケーションが広がったと思います。「さがファン」にお店を出して、何かが変わろうとしている…のは確かですね。

Q・うどん、そうめん、パスタ…それ以外に商品化の予定はありますか?
A・今のところはありませんが、商品認知の活動はしていこうと思っています。今夏、佐賀の様々な業種の経営者を集めて「文殊会(もんじゅかい)」という団体を作ったんですよ。「佐賀の食はこんなに素晴らしいんだよ」と一丸となってPRしていく会です。一人でやるより、団体で行動することにより、心強いし、何よりも楽しい。今週末も佐賀駅構内でミニ市場を開くんですよ。「文殊会」は"NOと言わない"のがルール。みんなで意見を出し合うことで、新しい発見や、別の物の見方ができるからですね。会オリジナルの新商品製作案は出ているんですよ。私は会長を務めさせていただいていますが、この会の又の名を「水の上を歩こう会」とも言っています。つまりは、出した足はもう引っ込められない。ただただ、前へ進んでいこう、という意味を込めています。自分ができること、やるべきことをやっていく、そしてやりたいことをやっていく-。このスタンスは生涯現役です。

Q・お話を聞いてるだけで、商品がどうこうというより今後の可能性が楽しみになってきました。最後に、「さがファン」をご覧になっている方々へメッセージをお願いします。
A・佐賀の特産品は本当に素晴らしいものばかり。私は、自分の孫に体にいいものを食べさせたい、という想いから、この商品を作りました。口に美味しく、心と体にも美味しい、ふるさとが産んだ海苔麺。ぜひ、一度お試しになってください。来年には、レシピコンテストなんかもやりたいなって思っているんですよ。佐賀の食で溢れたイベント…考えるだけでワクワクします。海苔麺はどんな素材にもマッチしますので、いろいろ調理法を試してみてくださいね。海苔の風味と味、香りを楽しんでください!


のり
きれいにカットされた商品用の約20cm四方の海苔1枚。この端を使って海苔粉末にする

のり粉末
吹けばフワッと飛ぶ程の、細かい海苔粉末。美しい海苔は太陽に透かすと深いグリーン色で粉末にすると抹茶色に。梅昆布茶同様、お湯に溶かして海苔茶としても楽しめるそうだ

のり作業
事務所の一角では、海苔の端を機械にかけ粉末にする作業が地道に行われている


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Posted by さがファンショッピング  at 15:29 │Comments(1)海苔麺の佐嘉の絲

この記事へのコメント

社長の生き方、考え方が前向きで人生を謳歌しているなあ、と思いました。是非佐賀の特産品をPRしてください。私も消費者として購入させていただきます。佐賀をいいまちにしたいですね。そんな思いは一緒です。
Posted by なかよしこよし at 2009年05月03日 06:22
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