店主訪問記

2017年09月06日

塩のり工房「有明の風」東島吉孝さん

有明の風 東島 吉孝さん
有明の風
東島 吉孝さん

1に味、2に安全・安心、3に適性価格
"キチッ"と海苔を育て、作ることが使命

 12年連続で生産高全国トップを走る、佐賀有明海の海苔。2007年、業界初の直販店をオープン、今年で10周年を迎える『有明の風』さん。8年前の初取材以来、毎回、海苔に懸ける熱い想いに心打たれ、ずっとその美味しさに心奪われ。生産、加工、販売とすでに10年前には6次化産業を先駆けて実現。並々ならぬ覚悟と情熱で成功に導いた、エリア最年長漁師・東島吉孝さん。”まだ引退するわけにはいかん”。じっくりお話を伺った。


≪東島一家の熱い思いはコチラから≫
★「海苔はおにぎりの包装紙じゃない!」初インタビュー…2009年6月
★夫婦2人3脚―典子さん、夢を語る…2010年10月
★海苔収穫真っ最中に工場突撃!…2012年3月
★店舗大改装!「すべてはガレージから始まる」…2013年7月
★テレビでも活躍!若手ホープ・香代子さん加入…2016年6月

Q・10周年おめでとうございます。新商品『ワサビ塩のり』も9月から新登場です!
A・10年前、海苔養殖漁業の生産者が直販事業を行うことは常識外のことでした。今では農業も含め直販は当たり前のようになっていますが、直販を行う漁師はまだ出てきていないんです。なので、それだけ難しいってことなんでしょうね。10年前はちょうど「地産地消」という言葉の認知度が高まっていた頃。それ以前から、漁師仲間の集まりでは「自分らが作った自信のある海苔を、直接消費者に届けたかね」という話が良く出ていました。しかし伝統業である海苔漁業は旧態依然としていて、漁協との兼ね合いもあり、なかなか新しいことに挑戦できない世界ではあります。まずネットで通販を始め、自宅横に直売所を設け、2011年には効率化の為、オーダーメイドの大型乾燥機を購入し、新商品を1年に1度ほど開発するなど、時代の流れを見ながらコツコツとやってきました。おかげさまで、全国に根強いリピーターさんができ、販路もグーッと広がったんです。

Q・PRの為に、百貨店の催事などに積極的に参加されていた時もありましたね。
A・そんな時代もありましたね。やっぱり、柔らかさが一番の佐賀有明の海苔って食べてもらわないと良さがわからないんですよ。広がり方としては、食べた方が人に勧め、もらった方がまた人に勧め…というクチコミが一番でした。昔、海苔は贈答品として有名でしたが、「贈る」という点は今でも一緒なんです。最近では「ふるさと納税」の返礼品に海苔を選ばれる方が増えましたね。『有明の風』に新商品である、ワサビパウダーを塩海苔にまぶした『ワサビ塩のり』や人気の『めんたい塩のり』『黒こしょう塩のり』など、スナック海苔があるのは、若い人に気軽に海苔に触れてほしいから。私としてはそれをきっかけに海苔の本当の美味しさがわかる『焼のり』の魅力に触れてほしいと思っています。スナック海苔はサイズも海苔(21cm×19cm)を8切にしたモノで、値段も手ごろ。ちょっとした手土産にもピッタリ。これは全部、うちの奥さんのアイデアによるものなんです。

Q・商品数も増えましたね!また経理に奥さん・典子さんの妹さん、広報に息子さんの奥さんである香代子さんがスタッフとして入られ、組織体制もきっちりしましたよね。
A・海苔業は家業として家族全体で行うものですが、最近、加工・販売業の方は女性チームに任せています…というか、締め出されちゃいました(笑)。体制が安定して、技術力も上がり、生産の長は私、工場長は奥さん、ときっちり分業できるようになったんですよ。昔は奥さんと一緒に海に出て、夫婦二人三脚でやってきました。奥さんが体調を壊して生産から離れた時期に、直販のアイデアが持ち上がったんです。海苔は秋から春までがシーズンなので、それ以外の時期はやることがないんですね。ですので、昔から家訓として漁師の家は副業を持っているのが当たり前でした。うちでは酒屋を営んでいたのですが、コンビニの台頭によりそれも難しくなり…直販に踏み出すいい機会でもありましたね。

Q・今振り返ると、近年大きく叫ばれている「6次産業化」の先駆けだったんですね。
A・本当ですね。今では催事などに行って自らPRしなくて良くなりました。私たちの取り組みを見て、県や市などの自治体、企業や団体、大学、高校…そして同業者が逆に尋ねてくるようになったんです。年々、食に対する意識が高まり、特に海苔は世間から健康食として注目を浴びるようになりました。予防医学を研究する大学のチームや糖尿病など病気を研究するNPO団体などからも、良くお声がかかるんですよ。

Q・常におてんとう様のご機嫌をうかがって、海苔漁師を続けている東島さん。時代の波を読む力にも驚かされます。
A・海苔の養殖が佐賀の有明海で始まったのは、昭和27年(1952年)、海苔漁業のピークはそれから10年ほどたった昭和39年(1964年)頃です。その頃は1シーズンで自宅が建つ、いわゆる海苔御殿が有名でした。その頃、海苔は「博打草」と言われるぐらいで、海苔バブルに浮かれた漁師が、大型に設備投資を行い失敗した例も少なくありません。この55年間で、佐賀有明で生き残った漁師は3分の1ぐらいですね。技術の向上とともに、博打草ではなくなり、不作の時も安定して供給できるようになりました。

Q・高級海苔として昔のように贈答品においての需要が減っても、佐賀、有明海の海苔は常に生産高トップをキープし、安定供給を続けていますね。
A・これも時代の流れです。今、有明海苔の一番のお得意先はコンビニです。全国のコンビニ約5万件に、毎日各何千枚と出荷しているんですよ。コンビニも競争ですから、美味しい海苔で巻いたおにぎりが食べたいというお客様に応えたい、と有明海苔への需要が増えているんです。ここ数年は不作でしたが、海苔の単価が上がり続けています。低品質でも品薄だから高値が付くんですよね。これは異常事態と言ってもいいぐらい。平成12年(2000年)の大凶作以来、海苔養殖漁師たちは10数年間、経験や技術を駆使して、安定供給を保つ努力をしてきました。不作になる理由は、佐賀有明海に限った話ではなく、「地球温暖化」、この一言に尽きます。ですので今年9月から直販商品は泣く泣く初の値上げを決定しました。うちは5%ほどですが、大手メーカ―は15%~20%値上げしています。

Q・後継者不足も根強い課題です。
A・近年のブームによって、農業にチャレンジする若者は増えているんですよ。自分たちが食べられる分は作れても、なかなかビジネスにするには難しいとは思いますが。しかし、海苔養殖漁業はもっと難しい。船などの初期投資、セリにかけられるなどの競業、漁協などの体制、技術…難点をあげればキリがありません。現在、修業中の身で活躍しているのは大方、30代の3代目ですが、子どもの頃から海苔漁師になると覚悟して、家業を継いだ若手ばかり。通常メインの漁師と助手であるサブ、2人で船に乗りますが、今、この助手の成り手がいないんです。ですので、私はハローワークを利用して、毎年、若者を数人雇っています。それでも「経験してみたい」という若者や女性も尋ねてくることがあります。しかし、本職にする気はないんですよね。今のところは技術力のアップで、生産者が不足しても、毎年、安定供給を可能にしていますが、後継者不足は本当に根強い課題です。

Q・東島さんはこのエリアで最年長。前回のインタビューでは「65歳までは頑張る」とおっしゃっていましたが、65歳になられましたね。
A・まだまだ引退するわけにはいかんですね。でも単年度契約、ということで自分と取り決めしています(笑)。今年4月に、船の作業中に落ちて腰の骨を折ったんですよ。オフシーズンで本当に良かったです。昨年の11月は頭を打って、5時間ほど意識がなくなりまして…ケガがつきものという点も後継者不足の一因ですよね。その点で奥さんにはとても感謝しています。今は工場長として頑張ってくれている。相手を尊重する、尊敬する、ということを今、60代にして初めて学んでいる真っ最中です(笑)。新商品開発には、私は一切タッチしていません。『ワサビ塩のり』も今日、初めて詳細を知ったぐらいですから(笑)。でも、加工・販売においてはすべて任せています。それだけ信じているってことなんでしょうね…ってなんか照れますねえ(笑)。

Q・もうケガは本当に気を付けてくださいね!まだまだ東島さんを追っていきますよ。最後に改めて、『有明の風』の魅力、そして今後の抱負を聞かせてください。
A・1に味、2に安全・安心、3に適性価格。海苔は生産地によって特徴がありますが、佐賀有明の海苔は柔らかさが一番の特徴です。黒くて美しく、病害を防ぐ酸処理剤をできるだけ使わず、海苔本来の香りに満ちた味の海苔。その海苔を手をかけて加工し、適性価格で、お客様にお届けしたいと思っています。大量生産・消費ではなく、ただキチッと海苔を育てたい。網を張ったら人間の都合は関係なく、海苔の都合で動かなければなりません。おてんとう様と自然が相手。それが「キチッと」ということなんです。丁寧に作った美味しい秋海苔、新海苔、冬海苔…常に理想の海苔づくりを追い求めていきたいですね。現在は「スサビノリ」という種ですが、幻といわれる『アサクサノリ』の生産も同時に有志とともに行っています。病気に弱いアサクサノリは育つ確率が50%。しかし、プレミアム海苔として、1枚50円で出荷し、市場では1枚150円以上の高値がつくんです。昔、海苔がいかに高級品だったことがわかりますよね。あと、ずっと言っていますが、太良町のカキ街道みたいに、海苔街道をつくりたいですね。おにぎり屋をつくったり、出張販売したり…夢は広がります。また、「海の男」ですから、環境活動を通した体験型観光「ブルーツーリズム」もやりたい!地域の子どもたちにも海の大切さを教えたい!…でも現場が一番…やっぱり、まだまだ引退の2文字は遠いですね(笑)。



有明の風有明の風
有明の風有明の風
10月初旬に網に種付けを行い、中旬には「のりひび」と言われる竿に網を張って、海中に沈めていく。干満差最大6mの有明海で、日々太陽に当たったり、海中にもぐったり、と"成長と抑制"を続けながら、強い佐賀有明海苔を育てていく


有明の風有明の風
二期作を行う『有明の風』。10月中ごろに海水に沈めた網の苗が、3~4㎝ほど成長したところで全体に張った網の半分を引き上げ、冷凍保存し、成長をストップさせる。もう半分の網についた苗は成長を続け、11月中旬には「一番摘み」。秋海苔、新海苔として12月のお歳暮シーズンにお目見えする


有明の風有明の風
有明の風有明の風
海苔の収穫は11月中旬から3月末まで。秋の収穫は4~5回行い、冬の収穫は10~12回行う。シーズン中は潮が満ちる早朝に、江湖(えご・水源のない川)にある漁船に乗り込む。収穫後は工場へ運び、作業を行い出荷。ピーク時には24時間態勢になることもある


有明の風有明の風
有明の風有明の風
いつも笑顔で温かく迎えてくれる『有明の風』の皆さん。船から工場へ運ばれた海苔は鮮度を維持する為、混ぜ続けた後、異物を取り除き、真水を入れてミンチ状にして洗浄。その後、水分を押し出して「21㎝×19㎝」の海苔の形にカットされ、約2時間半乾燥させる。加工場では一つひとつ手作業によって商品が作り上げられていく


>> 佐賀海苔「有明の風」の商品はこちらからご購入いただけます。

取材:森泉敦子



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Posted by さがファンショッピング  at 17:04 │Comments(0)佐賀海苔「有明の風」

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